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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)2890号 判決 1971年8月07日

東京都練馬区北大泉七八、あべや荘

原告 椎名麻紗枝

<ほか二名>

右三名訴訟代理人弁護士 松井繁明

<ほか二九名>

被告 東京都

右代表者知事 美濃部亮吉

右訴訟代理人弁護士 吉原歓吉

右指定代理人 山下一雄

<ほか二名>

右当事者間の昭和四五年(ワ)第二八九〇号損害賠償請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告は原告椎名麻紗枝に対し金二〇万一〇〇〇円、原告中村時子、原告沢口嘉代子に対しそれぞれ金一五万円、および右各金員に対する昭和四五年四月四日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを二分しその一を原告らの、その余を被告の各負担とする。

この判決は原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

(当事者の求める裁判)

原告らは、「被告は原告椎名麻紗枝に対し金四〇万四一四〇円、原告中村時子、原告沢口嘉代子に対しそれぞれ金三〇万円、および右各金員に対する昭和四五年四月四日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに第一項につき仮執行の宣言を求め、被告は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

(請求原因)

一  原告らは東京弁護士会所属の弁護士である。

二  警視庁麹町警察署(以下麹町署という。)警察官らは昭和四四年八月一六日午後六時半ころ、東京都千代田区富士見町二丁目一七番地法政大学附近で、同月一七日、一八日に行われる第一五回母親大会の会場変更を知らせるビラを電柱に貼ったということで母親大会実行委員会のアルバイトであった訴外八百川俊子を軽犯罪法違反を理由に逮捕した。

三  原告沢口嘉代子は母親大会代表者一〇名と共に同月一六日午後八時頃、被疑者八百川と接見し、捜査担当者より事情を聴取するため麹町署に行ったところ、同署は十名余の警察官を同署玄関前に立ち並ばせ、右原告らを同署内に入れず、体で押す等の威圧的態度に出、「今日は会わせない。時間外だ。」といって接見を拒否し、更に長妻謙三郎警ら課長は「帰れ。排除する。」等といって右原告らを威嚇し、名前を聞いても「俺は警ら課長だ。名前などいう必要はない。」とどなり、その後母親大会代表者二名と面会した際には「本人の住所、氏名がわかっても今日は接見させないし釈放しない。もっと調べることがある。アルバイトにしてはしっかりしすぎていておかしい。」といってあくまで接見を拒否した。

そしてようやく同日午後九時半に至り麹町署はその頃来署した日本共産党の川村都議会議員に対し「明日午前八時半、弁護士がくれば接見の時間等につき相談する」と約束した。

四  翌八月一七日午前八時三五分頃原告中村時子、同沢口嘉代子は母親大会代表者二〇名とともに麹町署に行き署内に入って被疑者八百川との接見と同署責任者との面会を求めたが、右母親大会代表者全員は四~五名の同署警察官によりすぐに同署外に出され、右原告らおよび遅れて同署内に入った原告椎名麻紗枝に対し同署警察官は前記川村都議との約束をも破って被疑者との接見を拒否した。

そして重ねて原告中村、同沢口が同日の麹町署の責任者との面会を求め、受付警察官の要求に従い原告中村は「申込書」に住所・氏名および被疑者接見と責任者面会を求める旨を記載して提出したが、原告らのまわりに集った約二〇名の警察官らは口々に「今日は会わせない。帰れ。」と大声でいい、原告らが「我々は憲法、刑訴法にあるように被疑者と面会する権利がある。接見させて下さい。接見を拒否するというのならその理由を明らかにして下さい。」と要求したのに対し、右警察官は「そんな権利があるなんてどこに書いてある。弁護士のくせに法律も知らないのか」といい、さらにワイシャツ姿の警察官は顔を紅潮させ「出ていけ。出ていけ。権利権利と弁護士づらするな。」とどなり、原告らが責任者を問うても右警察官らは答えなかった。

さらに原告らのそばに来た高野交通係長は「私が今日の責任者だ。警察は四八時間被疑者に弁護士をあわせる必要はない。」というので、原告らが「そんな法律がどこにありますか。警察は法律をつくるんですか。今日は面会させなければ帰りません。あなたの名と職名は何ですか。」といったところ、高野係長は「氏名はいう必要はない。法律は俺の方がよく知っている。住所、氏名もわからないのにどうして会わせることができるんだ。誰にあわせるのか警察にはさっぱりわからない。」と述べ、他の警察官は「本人は弁護士と会いたくないといっているのに、会わせるなんてそんなかわいそうなことができるか」等といって接見を拒否するのみであったが、その間私服の警察官はカメラを原告らに向け、冷笑しながら原告らを撮影した。

原告らがさらに「被疑者は弁護士と会う権利を法律で認められています。会わせないというならその理由を言って下さい。会わせるまで今日は帰りません。」といったところ警察官は「お前らは警察を指揮するのか。出ていけ。出ていけ。」と大声を発し、前記高野交通係長は「もう答える必要はない。これから弁護士を排除する。やれ。」と約二〇名の麹町署警察官を指揮して、原告らのまわりをとりかこませ、右警察官らは原告らの肩を突き、腕をつかんで押し出し、叩く、蹴る等の暴行をふるって同署玄関外へ突き出したが、その際原告椎名は警察官に後から両腕を強くつかまれて突き出され、全治五日間を要する両上腕挫傷を負い、原告中村は突きとばされて転倒し、これを助けようとした原告沢口は腕を叩かれた。

五  右のとおり昭和四四年八月一七日原告らは麹町署警察官により暴行をふるわれ個人の尊厳と身体の安全、自由を踏みにじられ、弁護士としての正当な職務行為を妨害され職業人としての名誉感情を著しく傷つけられ、多大の精神的損害を蒙ったところ、右損害を金銭に見積れば原告椎名については金四〇万円、同中村、沢口についてはそれぞれ金三〇万円を下るものではない。

また原告椎名は右のほか前記受傷の治療のため治療費として金四一四〇円の出費を余儀なくされ、同額の損害を蒙った。

六  前記麹町警察署警察官はいずれも被告東京都の公務員であるから被告は国家賠償法第一条第一項により、原告らが麹町署警察官の前記不当法行為により蒙った損害を賠償すべきである。

七  よって被告に対し原告椎名麻紗枝は金四〇万四一四〇円、原告中村、同沢口はそれぞれ金三〇万円および右各金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和四五年四月四日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する認否)

一  請求原因第一・二項記載事実は被疑者八百川俊子逮捕の時刻および場所の点を除き認める。

麹町署警察官が右八百川を逮捕したのは、午後六時五〇分、東京都千代田区富士見町二丁目一〇番二三号先においてである。

二  同第三項記載事実について

原告沢口が当日午後八時頃被疑者と接見し、捜査担当者から事情を聴取するため一〇名位のものとともに麹町署に行ったこと、麹町署では同署玄関前に警察官を立ち並ばせ、原告らが署内に入ることを拒んだこと、執務時間外であるとの理由で接見を拒否したこと、同署の課長が母親大会代表者二名と面会したこと、その際「今日は接見させないし、釈放もしない。アルバイトにしてはしっかりしている。」といったこと、日本共産党の川村都議会議員が同署に来たことは認めるが、その余の事実は否認する。

三  同第四項記載事実について

(一)  原告らが当日多数の女性と翌一七日麹町署に来て署内に入り、原告らが責任者との面会を求めたこと、原告中村が申込書に記入して提出したこと、原告らが「我我は憲法、刑訴法にあるように被疑者と面会する権利がある。接見させて下さい。接見を拒否するというのならその理由を明らかにして下さい。」と要求したこと、責任者が誰かを尋ねたこと、高野係長が「私が今日の責任者だ。」と言ったこと、原告らが「そんな法律がどこにありますか。警察は法律を作るんですか。今日は面会させなければ帰りません。あなたの名と職名は何ですか。」といったこと、また高野交通係長が「住所氏名もわからないのにどうして会わせることができるか」といったこと、原告らの接見申入れを拒否したこと、原告らが「被疑者は弁護士と会う権利を法律で認められています。会わせないというならその理由をいって下さい。会わせるまで今日は帰りません。」と述べたこと、麹町署警察官が原告らに退去を要求したこと、原告らを外に出したことはいずれも認める。

(二)  原告椎名が負傷したことは知らない。

(三)  その余の事実は否認する。

昭和四四年七月一七日早朝の麹町署における状況は次のとおりである。

当日午前八時二〇分頃中村時子、同沢口嘉代子は五〇名くらいの女性を伴って麹町警察署に来て全員が署内に入って、同署受付カウンター前のホールを占拠した。そして原告中村は同署巡査部長佐藤正治に対し「我々は弁護士だ。昨日の夕方ビラ貼りで不当に逮捕された者に接見させろ、責任者に会わせろ。昨日警ら課長、交通課長に話したら今日の午前八時三〇分に会わせると言ったのできたのだ。」と矢つぎばやに言い、佐藤が「そんな話は聞いていないが責任者に面会したいというのなら面会申込書を書いて下さい。」といって用紙を出すと原告中村が住所氏名と、用件として「被疑者接見と責任者面会」と記入して提出した。このころになるとカウンター前ホールを占拠していた女性が口々に「不当逮捕だ。」、「釈放しろ。」、「会わせろ。」、「責任者は誰だ。」などといって署内が喧噪となった。当時宿直責任者として事務室で執務していた高野文男交通係長はこの様子をみて自席を立ってカウンター前ホールへ行き、「責任者は私だ。交通の高野係長です。」と名乗り、原告中村が被疑者との面会を求めたのに対し、「捜査の必要上、今は会わせるわけにはいきません。」と断わり、原告中村が「弁護士だからいつでも会えるじゃないか。」と恰も刑訴法上の弁護人のごとくいうので、高野係長は「刑訴法上の弁護人の接見についても警察の持時間四八時間以内は接見の指定ができるのであり、いつでも会わせなければならないものではない。」といったところ、原告中村は「そんな法律がどこにありますか。警察は法律をつくるんですか。今日は面会させなければ帰りません。あなたの名と職名は何ですか。」と詰問した。これに対し、高野係長のそばにいた情報係長倉川満が「誰があんたを被疑者の弁護人に選任したのか。したならば弁護人選任届を見せなさい。」と質問した。すると原告中村はいきりたって「そんなものは必要ない。単なる軽犯罪法違反ではないか。弁護士なんだから会わせろ。」と強調した。そこで倉川が「住所・氏名もわからないのにどうして会わせることができるか。」というと原告中村は「弁護士にどうして会わせないのか。被疑者は弁護士と会う権利を法律で認められています。あなた達は法律を知らないのか。そんなことでよく警察がつとまるな。会わせないというならばその理由を言って下さい。」というので倉川は「あんたこそ弁護士の知識がないじゃないか。弁護士づらするな。警察へ来て余り商売気を出されては困る。」といい返した。このような原告中村と倉川係長とのやりとりを見聞きしていたカウンター前ホールを占拠中の女性らは一せいに怒鳴りたてたので、事務室内は騒然となった。そこで倉川、高野両名は右状態では執務できないと考えて、「外に出て下さい。」と大声で退去を求めたところ、原告三名は「会わせるまで今日は帰らない。」といって動こうとしなかったが、倉川と高野が両手をひろげてあおりながら、繰り返し「出て下さい。」と告げると、原告らは身体に触れられてもいないのに「身体にさわるな。」、「乱暴するな。」などと大声を出しながらゆっくり玄関の方へ進み、これにつれてホールを占拠していた女性らも逐次玄関から庁舎外へ退去し始めた。倉川、高野両名は両手をひろげて原告らの背後より玄関の外まで行き、両開きドアの片側を締めて玄関前に三名の署員を配置して女性らが再びホールを占拠することのないようにしたものである。

四  請求原因第五項は否認する。

五  同第六項中麹町署警察官がいずれも被告東京都の公務員であることは認めるが、その余の主張は争う。

(証拠)≪省略≫

理由

一  不法行為の成立について、

(一)  原告ら三名が東京弁護士会所属の弁護士であること、訴外八百川俊子が昭和四四年八月一七・一八日の両日開催予定の第一五回母親大会の会場変更を知らせるビラを電柱に貼っていたということで同月一六日麹町署警察官によって逮捕されたこと、原告沢口嘉代子が同日午後八時頃一〇名位のものとともに麹町署に赴き右八百川との接見および事情聴取のため捜査担当者との面接を求めたところ、麹町署では署員を玄関前に立ち並ばせて原告らを署内に立入らせず執務時間外を理由に接見を拒否し、同署警ら課長は原告らのうち二名(母親大会代表者)のみと面接したがその際にも「今日は接見させないし釈放もしない。」といって原告らに右八百川と接見することを許さなかったことは当事者間に争いがない。

そして、≪証拠省略≫を綜合すると次の事実が認められる。即ち、

原告沢口嘉代子は昭和四四年八月一六日母親大会から前記八百川俊子逮捕の連絡を受けた国民救援会の依頼により右八百川と接見しかつ、逮捕の不当であることを捜査の責任者に主張すべく母親大会の関係者一〇名位とともに前述のとおり麹町署に赴き名刺を出して右八百川との接見、責任者との面接を求めたのであるが、全員が署内に入ることは許されず、母親大会代表者二名のみが同署警ら課長長妻警部と面接することができたけれども、同警部は八百川俊子に同日は接見させないし釈放もしないということであった。しかし、その後同署にやってきて右長妻警部らに会ったという川村都会議員の報告によれば、明朝午前八時半に弁護士が来れば八百川俊子に会わせるということであったので、原告沢口は同署を引揚げ、原告中村時子原告椎名麻紗枝の両名にも接見に行ってくれるよう依頼した。原告沢口同中村の両名は一七日午前八時二五分ころ麹町署に赴き母親大会代表者約二〇名とともに署内に入り受付係の警察官にカウンターをはさんで前記八百川俊子との接見と同署責任者との面会を求め、八時半に来れば会わせるという約束である旨をも申述べたところ、右原告両名を除いて母親大会の代表者らは全員同署警察官三~四名によって同署の外へ出された。その後署内に残った右原告両名は五分程遅れて署内に入って来た原告椎名麻紗枝とともに重ねて同署警察官に責任者との面会を求めたところ、受付警察官は書面による面会申入を要求したので、これに従い原告中村が「面会申込書」に住所、氏名および被疑者との接見と責任者との面会を求める旨を記載して提出した。ところが、受付は責任者にも被疑者にも会わせようとしないので原告らはさらに憲法、刑訴法に被疑者との接見交通権が認められている旨を告げて接見させることを要求した。これに対しその頃までに受付カウンターの内側および外側に集まって来ていた麹町署警察官約二〇名が応答しそのうちの一人倉川満は「権利権利と弁護士づらするな。」と大声を出し、また「法律も知らないのか。」というものもあった。

このような状況下において当日の同署宿直責任者高野交通係長は「責任者である」といって原告らに近づき「警察は四八時間被疑者に弁護士を会わせる必要はない。」といい、原告中村から「そんな法律がどこにあるのですか。」と問い返し、高野係長からは「私の方が法律はよく知っている。」と答えるというやりとりがなされた。そこで原告らがなおも「被疑者に会わせてほしい。接見する権利がある。会わせないなら納得できる理由を述べてほしい、納得できる理由を述べるまで帰らない。」旨を述べて接見させることを要求したところ、高野係長は「警察を指揮するのか。もう何も答えることはない。排除する。」といい、カウンターの内側で原告らのまわりにいた約二〇名の警察官に原告らを庁舎外に出すよう命じた。そこで右警察官らにより一番奥にいた原告椎名は背後より両上腕を強くつかまれたりひざで突かれたりしたほか他の原告両名もあちこちから肩やわき腹を突かれて大勢のものがいる狭い庁舎入口附近に押し出され、これがため原告中村はしりもちをついて転倒した。

以上のような経緯で結局原告三名とも麹町署の庁舎外へ押し出されてしまった。

原告両名はその際両上腕部に全治五日間を要する挫傷を負った。

以上のとおり認められ(る。)≪証拠判断省略≫

(二)  右認定の事実によれば、原告ら三名が刑訴法上認められている接見交通の権利あることを主張して麹町署員により留置されている被疑者との接見を求めてきていることを知りながら麹町署員は原告らは右の権利を有するものではないという見解のもとに原告らを署内から排除する方法として右認定のごとき有形力を行使したものというべきところ、原告らが右要求をなすにあたりその言語、態度に穏当を欠くところがあったとしても、原告らが退去要求を受ければ抵抗するであろうと予測せられる特別の事情の認められない本件においては右の有形力の行使は、前記要求で来署した弁護士を署内より排除する方法としては違法の評価をまぬかれない。右警察官らが自らの有形力行使について認識していることは前認定の事実により明らかであるから、右有形力の行使は不法行為を構成するといわなければならない。

なお被告は当日原告らおよびその他の女性ら約五〇名が麹町署内の受付カウンター前ホールを占拠し、右女性らが一せいに怒鳴りたて事務室内が騒然となり執務できない状態になったので同署署員倉川、高野の両名が右女性らに庁舎外への退去を求めたと主張し≪証拠省略≫中これに副う部分があるが、前認定のとおり原告ら以外の母親大会関係者約二〇名は麹町署内に入って間もなく同署警察官により庁舎外に出されているのであり、原告ら三名のみが被疑者との接見を求めていたのであるから、このことによって同署庁舎内が執務できないほどの喧噪状態であったとは認めがたく、右各証言は採用できない。

二  右麹町署警察官らが被告東京都の公権力の行使にあたる公務員であることは当事者間に争いなく、また原告らに対する前認定の不法行為は右警察官らがその職務を行なうについてなされたものであることも明らかであるから被告は右不法行為によって原告らの蒙った損害を賠償すべき義務がある。

三  よって損害の数額について考えるに、原告らは弁護士として被疑者に接見する等の目的で麹町署に赴いたに拘らず多数の関係者のところで前記のとおり暴行をもって署内から排除され原告椎名はさらに前認定のとおり両上腕に全治五日間を要する挫傷を負ったのであるから右暴行により名誉感情殊に弁護士としての名誉感情を傷つけられ精神的苦痛を蒙ったものというべく、右精神的苦痛を慰藉するに足る賠償額は原告椎名については金二〇万円、原告中村、同沢口については各金一五万円と認めるのが相当である。

なお原告椎名は右受傷の治療を受け金四一四〇円出捐したことが≪証拠省略≫により認められるのであるが、同原告は右受傷の翌々日である八月一九日にも麹町署に行き転倒して医師の診断を受け、レントゲン撮影により検査を受けたことが≪証拠省略≫により認められるから右費用がすべて両上腕挫傷の治療にあてられたものということはできないところ、両上腕挫傷の治療および診断書の作成に要する費用は少なくとも一〇〇〇円を下ることはないと考えられるから、右出捐額のうち金一〇〇〇円は本件不法行為による損害と認むべきである。

四  よって原告らの本件請求は、被告に対し原告椎名麻紗枝が金二〇万円一〇〇〇円、原告中村時子、同沢口嘉代子がそれぞれ金一五万円、および右各金員に対する本件不法行為の日以後であることの明らかな昭和四五年四月四日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから正当とし認容し、その余は理由がないから失当として棄却し、民事訴訟法第九二条第九三条第一項本文に従い訴訟費用の負担を定め、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 綿引末男 裁判官 江見弘武 裁判官柿沼久は転所につき署名押印することができない。裁判長裁判官 綿引末男)

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